IPS援助付き雇用の理念とエビデンスについて

IPS はアメリカにおいては1980年代後半に精神保健機関における臨床と職業サービスを統合した就労支援として開発されていきました。当初は経験則に基づくものであったIPS援助付き雇用のコア部分として、有効なアウトカムを得るために必要な8つのプリンシパルが確立しました。(表1)
表1. IPS援助付き雇用のプリンシパル

1  競争的雇用に焦点が当てられている
重い精神障がいをもつ人たちは目標を一般雇用において、それを達成することができると考える。
2 仕事探しをいつ始めるのかはクライエントの選択に基づいている
働く準備ができているかどうかの評価・診断・症状・不法薬物の使用歴・精神科病院への入院歴・障がいの程度または刑事罰を受けた過去などによって、働くことを望む人々を排除しない
3 リハビリテーションと精神保健サービスの統合
IPSプログラムは精神保健治療チームと統合されている
4 クライエントの好みを尊重する
サービス提供はプロバイダーの判断よりむしろクライアントの好みと選択に基づいている。
5 個別の経済的カウンセリング
雇用仕事スペシャリストは、クライエントのために社会保障、医療扶助他の公的援助に関する個人用にカスタマイズされ、分かりやすく、かつ正確な情報を得るのを援助する。
6 迅速な職探し
IPSプログラムでは就職のためのアプローチとして、長期にわたる職業前評価や訓練・カウンセリングを行うよりもむしろ、クライエントが直接仕事を得るのを助けるために迅速な職探しをするアプローチを用いる。
7 系統的な職場開拓
雇用スペシャリストは、計画的に地元の雇用者と接触を持つことによって、クライエントの興味に基づく雇用者ネットワークを構築する
8 無期限の個別支援
クライエントが望み、必要とする限り、フォローアップ支援は個別に判断されて継続される
註:ここでいう「一般就労」は「競争的雇用」と同義である

 
その後の研究によってIPS 援助付き雇用は、従来から行われている段階的な職業リハビリテーションよりも雇用への有効性が示されています。
Bondら(2001)よれば、IPS モデル援助付き雇用の原則による就労支援は、デイケアなどのそれまでの伝統的な職業リハビリテーションサービスに比べて

  • 競争的雇用率は増加した
  • 入院や脱落率は増加しなかった
  • 医療費が節減された
  • デイケアよりも良い回復結果を見た

などとされており、IPSモデルはデイケアからの転換だけではなく、ACTやクラブハウスもなどでも導入されて有効であるとされています。
ヨーロッパやカナダでも研究報告がなされていますが、それらの報告でもIPS モデルでの就労支援を行なうことで、①一般就労率が増加する、②費用効果につながる、③労働賃金が高い、④社会的機能の改善、⑤病状の軽減、⑥高い自尊心をもてる、などの有効な成果が報告されています。
わが国においても、大島らにより個別就労支援に関する無作為化比較対象研究が行われ、従来の施設トレーニング型就労支援と比べ、高い就労率(個別就労支援群:44% vs 従来支援群:10%)が確認されています(大島ら, 2000.)。
これまでの世界的な19の無作為対象化試験によるIPSモデル援助付き雇用の有用性について、下図に示しました。

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註:ここでいう「一般就労」は「競争的雇用」と同義

コクラン・レヴューでは、援助付き雇用/個別就労支援モデルとクラブハウスなどの過度的雇用や事前の職業訓練を比較し、援助付き雇用/個別就労支援モデルでは、一般企業を含めた競争的雇用数においてきわめて効果的であることが示され、事前の職業訓練は標準的なコミュニティケアや病院でのケアに比べて、一般企業への競争的雇用を得るために効果的とはいえないことも報告されています(Crowther RE et al, 2001.)。


  • 大島巌 , 梅原芳江 , 久米和代他 : 公設地域活動支援センターにおける IPS 援助付き雇用(個別職業紹介とサポートプログラム)導入とその評価(2).西尾雅明(研究代表者): 平成 19 年度厚生労働科学研究補助金 精神障害者の一般就労と職場適応を支援するためのモデルプログラム開発に関する研究 分担研究報告書 ,2000.
  • Crowther RE, Marshall M, Bond GR et al: Vocational rehabilitation for people with severe mental illness. Cochrane Database of Systematic Reviews, 2, 2001.

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