IPSモデル援助付き雇用のはじまりはいつか

1980年代初めには、発達障がいの領域で就労の研究をしていたWehmanとMoonたちによって、最も重い障がいを持つ人たちでも、速やかに競争的雇用の職業をし、続けて特別に焦点を定めた職業訓練と援助提供をする「就職してから訓練を与える(place then train)」アプローチが、従来のアプローチより有用であることが示され、この方式が何名かのメンタルヘルス分野のリーダーらによって精神保健福祉領域にとりいれられたといいます。(Wehman P et al. 1988)
 
そして1980年代後半から、IPSに関する最初の研究がニューハンプシャーでBecker・Drakeらによって自然発生的なものとして始まりました。ある精神保健センターが財政的そのほかの理由によって重い精神疾患を持つ人たちのためのデイプログラムを閉鎖してIPSモデル援助付き雇用(この時にはまだこの言葉はなかった)プログラムを開始しました。その結果、1年間の競争的雇用参入率は33%から56%に飛躍的な増加を遂げました。その結果を知り、近隣の別のデイケアでは競争的雇用参入率は9%から40%に増加しました。そしてその結果から、さらに周囲の精神保健機関はIPSモデルの就労支援に転換し、デイケアや福祉的作業所を利用していた多くの重い精神疾患を持つクライエントが短時間の就職から時間数を重ね、競争的雇用に就けるようになる潜在的な可能性は予想よりも高いことを立証してきたのです。一方で、デイケアプログラムから離れることや働くことによって、クライエントの病状が悪化するのではないかといった懸念は実証されませんでした。
 
IPSモデル援助付き雇用プログラムでは「就労」は治療的なものであり、かつノーマライゼーションをもたらすものと考えられ、仕事を得る最適なアセスメントと職業訓練は「仕事に就いてしまうこと」と考えられています。その考えのもと、働きたい人一人一人に合った仕事を探し、クライエントが自らの興味や強みを活かして仕事を選択し、一般就労を目指すことが奨励されています。IPS の目標はクライエントが仕事を始める手助けをすることであり、必要以上の評価や訓練によって求職活動や面接の過程を就労の障壁としないようにすることです。IPSではクライエントと雇用専門家(Employment Specialist: ES)は協力して個別の就労プランを立て、必要な役割を果たすことが必要です。ESは、臨床チームと定期的なミーティングに参加したり、クライアント・臨床スタッフと就労支援の計画を作成したり、支援の責任を分担して連絡を取り合ったりして個別プランを作成します。
 


  • ※競争的雇用とは、障がいを持たない人と統合された職場環境で直接コンシューマーによって提供され、最低賃金以上の報酬を得ることができ、障がい者向けに用意された仕事でなく、サービス提供者によって提与えられた仕事でもない仕事につくこと。
  • Wehman, P & Moon, MS: Vocational rehabilitation and supported employment. Baltimore: Paulbrookes, 1988

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